読む毒

イヌ

ずっと

雨にぬれた靴は

かんたんにくさくなる

どうして?そんなふうにしてわたしを困らせるのだろう

靴がくさくなる必要は どこにもない気がするのに

変わらないはずの なぜか思い出せないチャイムの音が聞こえた

 


霧がはりついたような窓

に 浮かんでいる誰かの指のあと あぶら 汗 だろう

紙がまるくなる 鉛筆がかけなくなる

みんなの匂いがかたまって

それはとても嫌なことだ

隣のクラスの先生が怒っている声が聞こえた

 


学校のなかの 行ったことがない場所

水槽のなかに 泡をつくる機械 の 名前はなんていうのだろう

行き止まり の階段

にのぼったことはない

男子が何度も先生に怒られて

それを見ていたから

メダカの水槽はほんのり 魚くさい

強い風がふいて雨が学校にあたる音が聞こえた

 


おとなになるということは たくさん痛くなるということらしい

誰にも甘えられなくなり、

セックスの気持ち悪い話が すべて現実になるということらしい

みんな違うところに いってしまうということらしい

身体が ぶくぶくと ごりごりと 歪んでいくということらしい


それは、

先生のように

お父さんやお母さんのように

おばあちゃんのように

スーパーの店員さんのように

テレビのCMの人のように

なるということらしい

 


それから それから

 


わからない

 


椅子を引きずるたくさんの音が聞こえた

蛇口をひねった音が聞こえた

スプーンを落とした音が聞こえた

となりのクラスの子の泣き声が聞こえた

トイレを流した音が聞こえた

先生を呼びだす放送が聞こえた

牛乳をこぼした音が聞こえた

保健室の体温計の音が聞こえた

教室の引き戸をあけるのが聞こえた

音楽室からたくさんのリコーダーが聞こえた

ランドセルのブザーを間違えて鳴らしたのが聞こえた

遠くでカラスが鳴いているのが聞こえた

変わらないはずのチャイムの音が聞こえた